クリスマスのこと

クリスマスの思い出と言えば、小学生ぐらいから大学時代までが一番キラキラしていたように思う。

小学校時代は一年間で一番楽しみな日がクリスマスイブで、一か月くらい前から楽しみで仕方なかった。姉とクリスマスツリーの飾りつけをして、欲しいおもちゃをお願いする手紙をサンタさん宛てに書いて、イブは一番お気に入りの服を着て家で母と姉と一緒にグリルチキンとケーキとシャンメリーでお祝い。クリスマス当日の朝は早くプレゼントが見たくていつもより早起きしたものだ。

父は仕事で留守がちだったので家族パーティには参加しなかったが、日本語をローマ字で書いた”サンタからの手紙”をくれたりして、父なりに愛情を注いでくれていたように思う。

中学に入ってお菓子作りが趣味になった私はクリスマスケーキ作り担当になった(甘いものが苦手な完全辛党になった今では信じられないけど)。当時桑田さんとかさんまさんが色んなアーティストを集めてコラボソングを歌うクリスマス番組があって、姉と私はそれを毎年ものすごく楽しみにしていた。中2のころだったか、メイクとか仮装に興味を持ちだした私はジュリー的なメイクをして男装をし、おめかしした姉と一緒にクリスマス写真を撮ったりもした。学校行事以外でクリスマスに友達とパーティをしたり出かけたりした記憶はあまりなく、私にとってクリスマスはあくまでも家の行事だった。

大学時代はバブル時代の名残がまだ少しだけあったせいか、クリスマスは彼とイタリアンで食事してドライブし、夜景の見えるホテルに泊まる、みたいな過ごし方をする人も多く、出不精であまのじゃくな私ですらそんなような事をした年もあった。

 

私が今までに過ごしたクリスマスで一番思い出深いのが20歳のクリスマスイブだ。

当時、ホテルで行われるパーティなんかでお酒や食事を配るコンパニオンのバイトをしていた私は、当然クリスマスイブもどこかの会社の20周年記念パーティに駆り出されており、クリスマスらしい予定を何も入れていなかった。夜10時過ぎに横浜のホテルを出て、このまま帰るのは寂しすぎる!と思った私は、同じサークルの同期で気になっていたA君に思い切って電話してみることにした。A君はハーフっぽい綺麗な顔立ちをした長身リア充風お坊ちゃんで後輩女子からも人気があり、イブ当日にヒマなどという事はないだろうなと思ったが、私は彼の”そこはかとなく漂うオタク臭”に一縷の望みを抱いていた。

何度もためらいながらようやく電話してみると、彼は奇跡的に自宅で大学の男友達と試験勉強中だった(さすが理系)。それまでサークルのイベントでしか顔を合わせた事がなかった私が”イブの夜”なんていう重めのタイミングでいきなり電話しても大丈夫か心配だったが、彼は軽い感じで「じゃあ駅前のドーナツ屋で会おうよ」と言ってくれた。

ドキドキしながらドーナツショップで待ち合わせし、コーラを飲みながら今日のバイトの話なんかをしていると彼は「ホントは家で一緒にクリスマスパーティやりたいんだけどB(男友達)に会わせたくないんだよなぁ」と言った。私はB君がいようがいまいが、このままバイバイするよりはA君の家に行って一緒にイブを過ごしたいと思ったので、「いいじゃん、3人で楽しくパーティやろうよ」と言ってA君の家に押しかけた。

コンビニでお酒やおつまみやケーキを買いこんで3人でワイワイ過ごしていると、A君の心配した通り、酔ったB君が軽いノリで口説いてきた。私は曖昧な返事を続けていたが、時間が経つにつれてB君を止めないA君の方にちょっとした怒りが湧いてきた。そしてB君が隣に来て肩に手を回してきてもそのままにしていた。

だんだん気まずい雰囲気になり、B君がトイレから戻ってきたタイミングでようやくA君が口を開いた。「ちょっとしおさんと2人にさせてもらっていい?」B君はちょっと不満げだったがA君が真顔なのを見ると「じゃあちょっと横になるわ」と言って寝室に入っていった。

私はリビングのテーブルを挟んでA君の向かい側に改めて座り直した。しばらくの沈黙の後、A君は今日私から連絡があってすごく嬉しかった事、ひょっとしたら私も自分の事好きなのかなと期待したけど今日の態度を見ていると単に遊び友達を探しているだけなのかと感じた事などを冷静に語り始めた。

私は内心、彼も自分に好意を抱いてくれている事を知って有頂天になったが、表面上は神妙な面持ちで謝罪し、素直にA君のことが気になっていると伝えた。するとA君はようやく笑顔になり、テーブル越しに私の手をギュッと握って「良かった。じゃあ付き合おう」と言った。その日はソファで2人で抱き合って寝た。ドキドキして全然眠れなかったけど。

 

A君とはその後半年ほどで割とあっさり別れてしまったのだけど、この夜の出来事はなぜか今でも、その一連の会話だとか彼の誠実な眼差しだとか自宅のソファの感触までが臨場感を伴って思い出される。それはこの日が、当時の私が特別に感じていた”クリスマスイブ”という日だった事と無関係ではないかもしれない。

クリスマスイブにぬくもりだとか煌びやかさを感じなくなってからもう何年も経つけれど、私が今でもこの出来事をときどき懐かしく思いだし反芻してしまうのは、失われてしまった自分の純粋な恋心だとかクリスマスを心待ちにする無邪気さに対する未練なのかもしれない。

おわり

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